今回は、ゲンリッヒ・ネイガウスという人の本をご紹介します。
ネイガウスは20世紀ロシアの名ピアニストであり、モスクワ音楽院の名教授でもありました。
日本でも大変有名なピアニストであるスタニスラフ・ブーニンの祖父にあたります。
『ピアノ演奏芸術 ―ある教育者の手記』
ゲンリッヒ・ネイガウス 著
森松皓子 訳
（音楽之友社）
モスクワ音楽院における40余年の教育経験をもとに、
もっとも強調されているのは、まず〈芸術的イメージ〉ありきと言うこと。そこに音楽の本質があり、幼いモーツァルトがすぐに作曲できたり楽器が弾けたのは、常に頭に音楽が流れていたからだと書いています。
技術が無ければ良い演奏はできないけれど、技術の個々の要素にとらわれてばかりでなく、〈芸術的イメージ〉、つまり想像力を身につけることこそが大事だと書いてあります。
「私は学生たちに次のように言っています。ピアノは種々の楽器のなかでもっとも優れた俳優である、というのも、きわめて多彩な役を演じることができるからだ、と」
「ピアノのもつ豪華きわまりない可能性のすべてを完全に解明するためには、演奏する人の想像力のなかにより感覚的で具体的な音のイメージが存在することが、許されるとともにまた必要でもあり、さらには人間の声や、地上に存在する各種の楽器の音に具体的に現れるさまざまな様相を呈した現実的な音色や音の味わいが、演奏家の心にすでに宿っていることが、許され、また必要でもあります」
「ピアニストはたったひとり、孤立無援で１つの楽器と対峙し、だれの援護をも必要とせず、何か、最高の、完璧なもの――ピアノの作品――を創造していくからです。音楽すべてがピアニストの手にかかっている、彼ひとりだけにかかっているからです」
『ネイガウスのピアノ講義 ―そして回想の名教授』
エレーナ・リヒテル 編
森松皓子 訳
（音楽之友社）
素晴らしい弟子たちを育てたネイガウスのピアノ講義録です。
「音楽とは何か」という基本的なテーマから、ベートーヴェンやバッハの弾き方についての授業、
第１章がネイガウス金言集になっており、
「音楽家ひとりひとりが、まず指揮者であらねばなりません。」
「演奏中は、自分自身のことを考えないで、音楽や作曲家について考えなさい。」
「どうしてそんなふうに弾くのかな？無関心がそうさせたのだ。あなたはただ文字どおりには作品を理解したが、本質的に理解してはいない。」
「立派な芸術家であるためには、実際には存在しないものを想像する必要があります。」
‥‥‥などなど、モスクワ音楽院での講義中のフレーズが箇条書きにされています。
どちらも、音楽を聴くのとはまた違うアプローチで音楽に触れることができる本です！
興味のある方は是非読んでみてください。
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